From:Dr.kappa
木曜日、午後11時04分
自宅、ガラスのテーブルより
今回のメールはちょっと本業寄りの話題から始めさせてください。
理論物理学で研究されている対象の1つにブラックホール(black hole)があります。
英語を直訳すると「黒い穴」。
その名の通り、光さえ逃れられない程の強い重力を持つことから、この名で呼ばれています。
では、ブラックホールはどうしたら見られるでしょうか?
私たちの日常生活のレベルで「見る」と言った場合、物理的にはその対象から飛んできた光を(目やカメラなどで)捉えることを言います。
ですが、この方法は今の場合は使えません。
(実は量子効果を考慮すると、この主張は正確ではありません。
ご興味がありましたら追伸をご覧ください。)
と言うのも、ブラックホールを見ようと光を当てると、その光はブラックホールに落ち込んでしまい、出て来ないからです。
光が反射して来ないので、(上の意味で)見ることはできません。
では、どうするか?
科学者たちはいくつかの方法を考案し、実際にブラックホールを観察することに成功しています。
1つの方法は次の通り:
ブラックホールに落ちない光であっても、強い重力により近くを通ると曲がります。
イメージとしてはゴルフのパターを思い浮かべてもらうと分かりやすいでしょう。
カップに向けて打たれたボールは、穴に落ちなくとも、縁を通ると曲がります。
これはカップの部分が窪んでおり、平らでないからです。
相対性理論では時空(時間と空間)が平らでないと重力が生じます。
(これが一般相対性理論の基本的な考え。)
この「平らでなさ」の影響により、ちょうどカップの向こう側から打たれたボールが、カップの縁を通る際に曲がってこちら側に転がってくるように、
ブラックホールの向こう側から来た光が、ブラックホールの傍を通る時に重力により曲げられて地球に届く場合があります。
天文学者たちはこのような光を観察し、ブラックホールの存在の傍証としてきました。
もう1つの方法はノーベル賞を生んでいます:
この方法では、アインシュタインが予言した重力波を見ます。
重力波とは何か?
相対性理論では時空はゴムのように伸び縮みすると考えます。
そして、伸び縮みの結果、時空に歪みが生じていたら、それを我々は重力として感じるというのがアインシュタインの発見です。
ただし、時空の歪みは特定の場所に止まっている訳ではありません。
ちょうど水面に石を落とした時のように、大きく歪んだ部分があると、そこから周囲へ波のように歪みが広がっていきます。
これが重力波。
そして、2017年のノーベル物理学賞は、この重力波の検出に対して与えられました。
観察したのは、2つのブラックホールが衝突した際に生じた重力波。
それを「見る」ことに貢献した者たちに対してノーベル賞が与えられたのです。
したがって、これも1つのブラックホールを「見る」方法です。
実際、重力波を使った天文学が始まろうとしています。
**
さて、私はなぜ今回このような話をしたのでしょうか?
それは科学者たちも周辺を語っていることをお伝えしたかったから。
つまり、ブラックホールを見ようとした時、ブラックホールそのものを見られたら手っ取り早いのですが、実際はそれほど簡単ではありません。
そこで、ブラックホールの周辺を飛んできた光を見たり、あるいは光ではない重力波を通して「見た」りしています。
論理に則り、説得力を重視する科学者も周辺を語ることで対象(今回の話ではブラックホール)を立ち上がらせているということです。
P.S. ブラックホールの量子論に簡単にコメントしておきます。
興味が無ければ読み飛ばしてください。
量子論は簡単に言えば「可能なものは全て考えよ」という理論です。
したがって、量子論を考慮すると実は真空というのは「空っぽ」ではありません。
寧ろ、頻繁に粒子が生まれたり、消えたりしている、非常に騒がしいものです。
ブラックホールの周辺も例外ではありません。
それ故、ブラックホールの表面で2つの粒子が生まれ、一方はブラックホールに落ち込み、もう一方はブラックホールを抜け出す確率が0ではありません。
確率が0でないことは量子論では考えなければならないのでした。
すると、量子論まで考慮すると、ブラックホールから粒子が滲み出て来ていると考えられます。
このことに気付いたのはホーキング。
彼の名を取って、ブラックホールから粒子が放出される現象をホーキング輻射と呼びます。
この追伸で何が言いたかったかと言いますと、量子論まで考慮すると、実はブラックホールから出てくる光もあり、完全な黒ではないということです。
最後までお読み頂き、どうもありがとうございました。
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