From:Dr.kappa
水曜日、午後10時49分
日本、本州
私たち研究者というのは、一般の方からすると馴染みない存在なのかもしれません。
そもそもの母数が少ないですからね。
一方で、中にいる者にとってはそれが日常。
ただ、その日常の中には、一般の方にも使える知識があると思いますので、今日はそんな話を1つしたいと思います。
~~
研究者になるには通常、学部を卒業した後に大学院へ進みます。
私が知る範囲では大学院は2年間の修士課程と3年間の博士課程に分かれています(海外では少し異なる場合があります)。
(人文系や医療系だと違うかもしれません。)
修士課程に入ると本格的に論文を読むことになります。
少なくとも理系の場合は、(大抵の大学では)最初の1年間で1本の論文を選び、それを読み込みます。
そして、1年目の終わり頃に先輩や教授たちの前で発表。
ボコボコに質問される者も少なくありません。
発表会の結果によって就きたい指導教官に就けるか否かが分かれる場合もある為、修士1年生は必死で勉強します。
私の場合はどうだったか?
大学院に入って数ヶ月の頃に、就きたい教員のところに興味のある論文を持って行って、「これを発表しようと考えている」と伝えました。
彼が勧めてくれる論文もあったのですが、私は自分の趣味を取ってその論文で行くことにしました。
ただ、その論文が曲者だったのです。
私の分野では必須となる理論があります(理論の名前を出すと私が特定される可能性があるので、詳細をお話できないことはご理解ください)。
その理論を深く身に付けていないと理解できないような論文だったので、最初は全く意味がわかりませんでした。
(概要の主張だけはわかったので、件の論文に選びました。)
というのも、その理論は学部では習わず、大学院で学ぶからです。
勉強が進んでいる学生だと学部の頃から標準的な教科書を1周以上し終えてから大学院に入る強者もいます。
私も挑戦はしたのですが、当時はほとんど理解できず、学部の内容に集中することにしていました。
その為、必須の理論の理解が欠いた状態で曲者の論文に挑むことになりました。
では、私はどうしたのか?
もちろん、一方では基礎となる理論を勉強しつつ、もう一方でその論文を読んでいました。
ただ、1回読んでも当然わかりません。
そこで、来る日も来る日も、何回も読んでいました。
しまいには、(理解はしていなかったのですが)書いてある内容をそらで言えるほどになりました。
そこまで繰り返すと不思議なもので、段々と言わんとすることがわかってきました。
(基礎の勉強をしていた効果もあると思います。)
そして最終的には発表も無事終わり、希望した指導教官の元で研究を進められることになりまいした。
この経験から何が学べるでしょうか?
牛になること。
ニーチェの言葉を引用します:
私の著作が『読みうる』ようになるまでにはまだ年月を要する―一つのことが必要だ。
―そのためには諸君はほとんど牛にならなければならない。
そしていずれにしても『近代人』であってはならない。
その一つの事というのは―反芻することだ
出典:道徳の系譜(いま本が手元に無いので、ネットで検索して見つかったものを記載しています)
ニーチェの言葉は前回のメールに通ずるものがあります(彼を意識して書いていたと言った方が近いのですが)。
つまり、『近代人』のように、誰かが噛み砕いてくれた柔らかいものしか口にしていないと、顎が弱り、自分自身で噛み砕く能力が衰えます。
そもそも、その過程で「唾液」という不純物が混じる可能性も小さくありません。
(私は人が噛んだものを口にする趣味はありません。)
私たち研究者の世界でも、第一人者が書いた硬い論文が、他者に解説されていく過程で誤りが混じることがあります。
それ故、私は可能な限り原論文に戻って自力で噛み砕くようにしています。
(いま思い出してみると、なぜか昔から源流に惹かれる傾向があったようです。)
ニーチェが見抜いたように、現代は解説コンテンツが好まれ、軟弱な顎しか持たない者が増えています。
この状況は、裏を返せば、普段から自力で考えている者には有利だと言えるかもしれません。
その為には、唾液の混じった軟弱なものではなく、硬い原形を牛のように反芻することで噛み砕くことです。
たとえ最初は歯が立たなくとも、自分の顎で一口づつ、繊維を一本づつ噛み切って行くことです。
修士1年の私(や同期たち)がしたように。
最後までお読み頂き、どうもありがとうございました。
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