「褒めるvs叱る」問題に対する統計学的「回答」

From:Dr.kappa
土曜日、午後10時35分
日本、本州

このメールを読んでいる方の中には、お子さんをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

あるいは、企業で部下の指導をしている方、もしかしたら私のように大学などで学生を見ている方もいらっしゃるかもしれません。

これらの「教育」の場面において、必ずと言っても良いほど問題になるテーマがあります。

それがこのメールの件名にした「褒めるvs叱る」問題です。

両者の言い分は大体次のようなもの:

褒めることによって、良かった点が理解でき、しかも「やる気」も出るから褒めた方が良い。

逆に、叱ることによって問題点が認識でき、着実に進歩できる。

さて、「教育」の場面において、褒めるのと叱るの、どちらの方が効果的なのでしょうか?

簡単な「答え」は(実際は特定の1人を相手にしますので)一概にどちらが良いとは言えません。

(前回までの言葉を使うなら、その相手がどのようなアイデアネットワークを持っているかに依るからです。)

ただ、これではなんの指針にもならないので、数学に乗せて考えてみたいと思います。

というのも、この問題に対する統計的な事実が知られているからです。

それは平均回帰という傾向。

これは何か?

わかりやすいように、できるだけ具体的な状況を考えてみます。

以前書いたように、私は今、月に億を稼ぐプロジェクトを進めています。

(1案件で2000万円が達成できたら、サークルでその方法を解説しようと考えています。)

その為に取った戦術は広告を使ったアフィリエイト。

より詳細には、ディスプレイ広告GDNを使っています。

ディスプレイ広告はリスティング広告と異なり、自らキーワードで検索して来たユーザーがアクセスする訳ではありません。

以前解説した言葉を使うならunawareの状態にあるユーザーを相手にします。

その為、リスティング広告で狙うawarenessの高いユーザー相手よりは売りにくいのですが、一方でユーザーの母数は圧倒的に多いというメリットもあります。

そこで、私が日々鍛錬している言葉の力を使って、一般的には売ることが難しいその膨大なユーザーに広告主の商品を届けられないかと考えました。

私は今までセールスレターの執筆やリスティングを使ったアフィリエイトをして来たので、awarenessが比較的高いユーザー相手の言葉には多少の経験があります。

awarenessが変わっても、人間であることには変わりはないので、ある程度は今までの経験が使えるだろうと思っていました。

ただ、実際はawarenessの違いが大きな障害となります。

最初は今まで通りのコピーを書いていたのですが、それらはことごとく裏目に出てしまいました。

例を挙げるなら次のような惨状でした。

David Ogilvyによると、ヘッドラインを読む読者数は本文を読む読者数の約5倍ということなので、FV通過(最初の画面からスクロールすること)は20%程と考えられます。

一方で、awarenessが高いユーザー向けに書いた私のコピーは、FV通過81%、83.3%、93%など、80%以上が平均でした。

ところが、ディスプレイ広告を使ってawarenessの低いユーザー向けに同じ考えを使ったところ、FV通過は20.77%、27.25%、33.55%など、非常に低空飛行となってしまったのです。

それ故、今までの予想は一旦捨て、あらゆる指針を1つ1つ調べていきました。

その結果、以前書いたように、バージョン12でFV通過92.7%という数字が出ました。

1000人アクセスしたら、927人は最初の画面からスクロールしてくれるということです。

さて、ここが平均回帰の核心になるのですが、この次に書いたバージョン13の結果はどうなったでしょうか?

もしかしたら、「unaware向けのコピーの書き方がわかったから、その次も100%近いFV通過を叩き出したのだろう」と思われるかもしれません。

あるいは、「そんな高いFV通過は偶然だから、次のバージョンでは成績が落ちただろう」と予想されるかもしれません。

結果はどちらでしょうか?

正解は後者です。

v13のFV通過は80.63%に落ちました。

その原因はここではお話しできませんが、FV通過が落ちたという現象自体は統計的に説明ができます。

成績を左右する要因としては、一般的には(1)ベースとなる能力と(2)運の2つの要素があります。

前者は今の場合は私のコピーライティング能力です。

このベースとなる能力は(短期間では)あまり変わらないのですが、運の方は大きくブレる可能性があります。

そして、運というのは完全にランダムなものです。

(より正確には、数学で正規分布と呼ばれる確率分布に従います。)

それ故、非常に良い成績が出たとしたら、そこにはベースとなる能力だけでなく、良い方向へのブレが大きかった可能性が高いと見るのが現実に近いと考えられます。

もう少し詳細には、ベースとなる能力を平均として、その両側に正規分布をした成績になると考えられます。

(例として、FV通過が平均80%の人がいるとしたら、その人のFV通過が

・85%か75%と、平均±5%になる確率は同じで高い
・100%か60%と、平均±20%になる確率は同じで低い

ということです。)

ランダムなブレが良い方向に何度も続く確率は小さいので、非常に良い成績が出た次の回は平均に近付くと考えて間違いありません。

実際、この傾向は

・植物の背丈
・空軍の訓練生の成績
・ゴルフの成績

など、ありとあらゆる場所で確認されています。

さて、ここで冒頭の問題に戻ります。

褒めるのと叱るの、どちらの方が良いのか?

褒められる者はその直前に良い成績を出したと考えられます。

つまり、ベースの能力が高かったという原因も考えられますが、それに加えて良い方向への大きなブレが味方したと考えられます。

良い運は2回続きにくいので、このランダムなブレの部分は次のパフォーマンスでは落ち、前回の成績より落ちると予想できます。

同様に、叱られる者は最初の成績が悪かったと考えられます。

ですが、そこにはベースの能力が低かったという要因だけでなく、単にブレが悪い方向に大きく出た可能性も高いと考えられます。

悪い運も良い運同様、2回は続きにくいので、この揺らぎの部分は次のパフォーマンスでは向上すると予想できます。

それ故、成績が非常に良かった者も非常に悪かった者も、どちらも次のパフォーマンスは平均に近付くと考えられます。

これは統計的に避けられない傾向です。

この傾向のことを平均回帰と呼びます。

言い換えるなら、成績が良かった背後には、良い方向へのブレが味方した可能性が高いので、そこで褒めても次の回には成績が悪化する可能性が高いということです。

逆に、成績が悪かったとしても、そこにはマイナスの揺らぎが入っていた可能性が高いので、叱ろうが叱るまいが、次のパフォーマンスは向上する確率が高いと言えます。

(余談ですが、スポーツ雑誌の世界には、雑誌の表紙になった選手は次の年の成績が悪化するというジンクスがあるようです。

ですが、平均回帰を理解すれば、これはジンクスでもなんでもなくなります。

雑誌の表紙になった選手は、前年に驚くほどの好成績をおさめたと考えられます。

そして、それはベースの能力が高いだけでなく、運も大きく味方したと考えて良いでしょう。

ということは、「その翌年には揺らぎの部分が平均に近付き、成績が悪化するだろう」と平均回帰から予想できます。

この予想がかなりの確率で現実となるからか、このジンクスが囁かれるようになったと考えられます。

言い換えるなら、雑誌の表紙になる程の年は運が味方して良い方向にブレてくれたが、その運が翌年度は続かず、平均回帰をしただけです。

因みに、この話は以前もご紹介したこの本で知りました。)

以上より、褒めようが叱ろうが、実際はあまり関係無いということが言えるのでは無いでしょうか?

(もちろん、「やる気」などの他の要因の影響は別に考えることができます。)

さて、ここまで「教育」一般をテーマとして考えてきました。

したがって、この議論の対象としては自分自身も含めることができます。

つまり、良い成績が出てもあまり浮かれず、逆に悪い成績でもそこまで落ち込む必要は無いということです。

むしろ、ベースとなる能力を高めていくことだけに集中するのが重要だと私は考えます。


P.S. 私の友人の経営者は、そもそも他人を「教育」しようという考えが傲慢だと言っていました。

私も彼の考えに強く同意します。

「教育」の対象としては

・子供
・部下
・学生

など、(日常会話の意味で)相対的に自分より「弱い者」が該当する場合がほとんどですが、彼らも1人の人間なので、対等に接することが大前提ではないかと個人的には考えています。

P.P.S. 今回の平均回帰の考え方は投資にも使えます。

各企業のパフォーマンスは短期間では上下にブレる可能性が高いのですが、長期的に見ると平均に回帰していきます。

これはどんな企業であろうと逃れることのできない統計的事実です。

この傾向をうまく利用した投資法が他でもなくドルコスト平均法ですね。



最後までお読み頂き、どうもありがとうございました。

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