From:Dr.kappa
月曜日、午後4時52分
大学、図書館より
私は小さい頃、よく次のように言われました:
「しつこい」
光栄です。
算数や数学が好きな子供だったので、熱中すると納得行くまで深めずには居られませんでした。
好きな本は毎日のように繰り返し読んでいましたし、数学の問題は目を瞑っても解けるほどやり込んだものもあります。
私が自分で考案し、実行していた英語の勉強法にも触れたことがありますね。
数100単語ある長文を丸暗記して、
・歩いている時
・電車に乗っている時
・食事をしている時
空き時間を見つけては頭の中で高速で思い出していました。
そんな凝り性が幸いしたのか、今では研究者という職に就けています。
教育を受ける前の素の状態で「しつこい」と言われた人間ですから、研究者になった今、どんな勉強方法を取っているかは容易に想像できるでしょう。
コロナ禍以前から情報化を受けて、主にアメリカの大学(MITやハーバード、プリンストンなど)では、セミナーの動画をネット上にアップしてくれるようになっていました。
現地に行くことはできなくとも、それらの動画を視聴すれば、セミナーの内容は学べます。
したがって、関心のあるテーマのセミナーを私は携帯に保存し、繰り返し視聴しています。
5回、10回、30回…
もしかしたら100回くらい見たセミナーもあるかもしれません。
私の分野でトップとも言われる研究者のセミナーです。
(彼の発する言い回しまで覚えてしまうこともあります。
そして、論文を書く際にそれを使ったことも。)
セミナーだけではありません。
論文もそう。
深いことが書かれている論文は、何度も繰り返し味わっています。
読む度に新しい気付きがあることに感心しながら読んでいるのです。
「どうすればこんな論文が書けるのか」と。
(私が知っているある研究者は、「自分より賢い者の論文を完全に理解するまで読み込め」と言っています。
私はまだまだ彼らの論文を完全には理解できていませんが、考えとしては私と同じですね。)
さて、私の研究の話などには興味が無いでしょうから、今回のメインメールでは以上の話をライティングに関連付けてみましょう。
どう関連させるか?
繰り返し。
ライティングに関して繰り返していることはありますか?
なんでも構いません。
ただ、自分の能力を高めてくれる習慣であれば、とても良いと思います。
個人的な習慣を書かせて頂くなら、私は言葉の研究をすると決めてから1日も欠かさず売れたレターの分析を行っています。
もう2年以上になるでしょうか。
また、当初は一流のコピーライターの書いた記事を読み漁っていたので、その過程でMark Fordなど、見本となる人物を発見しました。
そして、彼の言葉「コピーライターならまず毎日書け」を「もっともだ」と感じたので、それ以来は書く日課も取り入れています。
いま振り返ってみると、これらの習慣も繰り返しと言えるでしょう。
(元来が凝り性なので、特に苦に感じたことは幸いありません。)
そんな繰り返しの中で、何度も出くわす観察があります。
それが売れたレターのほとんどに共通する構造。
これに関しては以前も触れたことがあります。
以前は次の4つだと書きました:
1.比較
2.理由
3.理由を備えたものとして商品を提示
4.念押し
全ての価値は相対的なので、比較によって価値が鮮明になります。
夜空に星が輝いて見えるのは、背景の空が暗いから。
したがって、まずは冒頭で比較を打ち出し、価値を鮮明にすることを狙います。
比較をされると、人間は自然と優劣を付けがちです。
そこで、「優」とされる価値が商品に備わっているような文脈を設定する訳です。
優劣。
価値が鮮明になったら、その差を生んでいる理由を与えます。
そして、その理由を備えたものとして商品を提示。
最後に冒頭の比較を再び提示して、現状に「劣」、行動することに「優」という意味付けをしてあげてクロージング。
骨格だけを抜き出せば、私が今までに分析して来た29本のセールスレターはことごとく以上の構造を持っています。
ただ、この観察は私の中では既に古典。
今はもうちょっと考察が加わっています。
(もちろん、上の構造を今回も書いたのは、繰り返しを狙っているからです。
全く同じ内容、例えば私のように数学の問題やセミナー、論文など、を繰り返す場合でも得るものはあります。
それだけでなく、私自身の理解が変化しているので、微妙に表現が変わっているかもしれません。
その結果、また違った感じ方・観察をお届けできていれば嬉しく思います。)
たた、これからお話ししたい観察を得るに至った方法は同じです。
観察。
理論物理学の研究と同じです。
様々なセールスレターの分析を通して共通して使われている構造に気付いたのです。
それは何か?
否定→抽象→具体。
この順番です。
上で触れた4つの構造(の前半部分)の解像度が上がった感じでしょうか。
特に、世界一のセールスコピーライターと呼ばれるGary Bencivengaのレターを読んでいると、この構造を頻繁に目にします。
例を挙げてみましょう。
このレターのサイドバー。
Like pork used to tasteの3段落目、Another selling point〜を見てください。
この段落で行っていることは何でしょうか?
一言で言えば、レターで販売している食品の安全性を読者に感じてもらうこと。
このような意図を達成したい時、巷のレターは何と書くでしょうか?
「X種類の検査に合格しています」
「Xという機関が保証しています」
「国のお墨付きで〜」
うんぬん。
全くダメですね。
(もし、上のようなコピーを書いていらっしゃったらすみません。)
なぜダメか。
イキナリ主張から入っているというのが1つ。
確かに事実を示そうとしてはいますが、安全性を主張しようという意図がミエミエなので臭くなっています。
他の理由を挙げるなら、文脈を設定できていないから。
もう一度書かせて頂くと、価値は相対的なので、適切な文脈の設定無しには狙った価値を感じてもらうことは難しい。
(実際、上のようなレターが多いので、もはや消費者によってはそれが「アタリマエ」で、何の価値も感じてもらえない言葉になり下がっています。
他に埋もれた言葉は日中に見えない星と同様、無いに等しい。)
では、Gary Bencivengaはどうか?
先ほどの黒豚ハムのレターに目を戻してみると、さすがBencivenga。
最初から主張するというミスは見事に避けています。
そうではなく、「狂牛病の心配をしていた時に〜」と事実を示しつつ文脈の設定をしています。
どんな文脈か?
続く本論で商品に価値を感じてもらえる文脈です。
より詳細には次の通り:
ここで打ち出されている価値は安全性。
安全=優、危険=劣という価値を打ち出そうとしています。
前者の安全の価値を鮮明にする為に、まずは劣から見せ、比較も行っています。
別の見方をすると、この劣を否定し、優が欲される構造を作り上げている、と言うこともできるでしょう。
ここで、否定には2つの効果があったことを思い出してください。
つまり、
・興味を引ける
・説得力を高める
の2つ。
どちらもセールスレターにおいては不可欠な要素です。
特に興味を引ける点は、冒頭から続きを読んでもらうのに便利。
Bencivengaは当然このことを理解していたのでしょう。
否定から始まっているコピーを頻繁に目にします。
二項対立、安全vs危険のような優劣の劣を切り、優に対する欲求を強めるのが上でお見せした3つの順序の1番目。
次の抽象というのは優に相当する価値を文字通り抽象的に打ち出します。
Bencivengaのレターに戻ってみましょう。
issuesまでで否定が終わった後、ultimate in traceability、究極的な追跡可能性と抽象的に安全性を打ち出しています。
(ただし、安全だと主張していないことにも注意してください。)
追跡可能性という事実を示すに留めています。
この2番目は簡単ですね。
そして3番目。
具体部分では直前で打ち出した「優」の価値を詳しく伝えます。
やはりBencivengaのレターを見てみましょう。
トレーサビリティを打ち出した後、この抽象的な価値を「家系図(豚系図?)を追える」と言い換えています。
しかも、イメージし易いように具体的な名前National Swine Registryまで出しています。
この2,30単語ほどのちょっとした段落でGary Bencivengaが行なっていることが少しは見えて来たでしょうか。
「何気ない」コピーに見えて、(私が読み取れただけで)実はこれだけの意図が隠れているのです。
**
会社員や起業を目指す者だけでなく、研究者も最近はどこか急かされている感があります。
研究者は(残念ながら)出版した論文の本数で評価される部分があるからです。
ですが、ほとんど中身の無い論文を書いて何が嬉しいのでしょうか?
10年後、100年後に残る仕事なのでしょうか?
私はそうは思いません。
そうではなく深めること。
一流の者が書いた論文を骨に染み込むほど読み込むこと。
ライティングに適用するなら、Gary Bencivengaのセールスレターを写経してみるのもお勧めです。
私は当初は写経には懐疑的でしたが、確かに書くことで見えて来るものもあるからです。
どうやら、科学的にも写経の効果をサポートする結果があるようなので。
(ただし、もっと力が付くのは1文1文、書き手の意図を考えながら分析すること。)
P.S. 最後の部分には「否定→抽象→具体」を使ったことにお気付きでしょうか?
この型は非常に強力なので練習してみると良いですよ。
最後までお読み頂き、どうもありがとうございました。
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