ルパンと砂漠の雨と情報理論

From:Dr.kappa
火曜日、午後2時46分
大学、オフィスより

さっき、オフィスへ向かって歩いていた時のことです。

ふと、人間の判断を変える方法に関して、新しい理解を得ました。

この点に気付いた瞬間、いくつかの記憶も蘇って来たのです。

1つはルパンのアニメ。

作品名を覚えていなかったのですが、調べてみたら「脱獄のチャンスは一度」でした。

(以下にはネタバレを含むので、まだ観ていない場合は******まで飛ばしてください。)

端的に言うと、ルパンはこの作品で捕まります。

そして、投獄までされます。

いつものようにすぐに逃げるかと思いきや、彼は1年間、牢獄に留まるのです。

ただし、1つのことをしながら。

それは「自分は偽物だ」と主張し続けること。

なぜ、ルパンはこんなことをしたのか?

それは周りの者たちを信号に慣らす為です。

死刑が執行される間近、看守が独房に入って来た瞬間、ルパンは彼を捉え、看守に成り代わります。

そして、看守を独房に残し、彼の身なりで堂々と脱獄するのです。

残された看守はどうなるか?

当然、「自分は偽物だ」と主張し続けます。

ただ、周りの者たちは1年間この主張に聞き飽きている為、本当の信号だとは気付きません。

ルパンはこれを狙って1年間準備していたのです。
******

さて、実はこのルパンの例はお話ししたいことと「逆」の場合です。

そこで、「順」の場合に入りましょう。

キャンパスを歩いている時に、もう1つ蘇って来た記憶は砂漠の雨です。

砂漠にはほとんど雨が降りません。

その為、天気予報があるなら、毎日のように晴れです。

言い換えると、砂漠での晴れの予報は、ルパンの「偽物だ」という主張のようなもの。

その信号は何の情報ももたらしません。

ただ、砂漠で雨の予報が出たらどうなるか?

その信号は大きな情報量をもたらします。

さて、やっと今回の補足メールでお話ししたかった核心に入ります。

科学の1分野に、情報理論と呼ばれる理論があります。

私は専門家ではありませんが、学部生の頃に勉強した経験からは、「ある信号がどれだけの情報を送るか?」を問う学問です。

では、砂漠での雨の天気予報はどれくらいの情報をもたらすでしょうか?

情報理論では、情報量は次のように定義されます:

(情報量)=-log(p).

ここで、pは確率です。

より正確には、信号が言及する出来事が起こる確率。

今考えている、砂漠での雨の予報の場合は、確率pは非常に小さくなります。

1年に6回ほど雨が降るとして、確率6/365~1/(2^6)=pとしてみましょう。

すると、砂漠での雨の予報が持つ情報量は
-log(1/2^6)=-log(2^{-6})=+6
となります。

(この計算を追いたい場合の為に、少しlogについて補足しておきます。

logは対数と呼ばれ、桁数を取る操作です。

「何の」桁数を取るかにも依ります。

ここでは0と1という2進数が頻繁に使われる情報理論にのっとって、底は2と取りましょう。

すると、log(2^2)=2, log(2^5)=5, log(2^{-6})=-6などとなります。)

つまり、1年に6回ほどしか雨が降らない砂漠で「雨」という予報は6の情報量を持つということです。

もっと雨が少ない地域の場合、例えば1年に3回ほどであれば、確率は大体p=1/(2^7)となります。

したがって、この地域で雨という予報は情報量7を持ちます。

この道具を使って、ルパンの事例も考えてみましょう。

すると、「独房の男が自分は偽物だと主張する」という信号はルパンの策略により、1年間365日発せられていました。

その為、実際に偽物である看守が同じ信号を発したところで、その信号は何の情報ももたらしません。

確率が1の出来事p=1だからです。

(この時、情報量は
-log(1)=-log(2^0)=0
となります。)

なぜ私はこんな話をしていたのか?

それは人間の判断を変える方法、私の言葉を使うなら、アイデアネットワークを書き換える方法は情報理論の言葉で言い換えられるからです。

つまり、「大きな情報量を伝える」言葉が判断を変えます。

ちょうど、砂漠に住む方々が出掛ける際に傘を持って行こうとするように。

逆に、ルパンの場合の看守のように、何の情報量ももたらさない言葉では、相手の判断を変えることはできません。

「情報量の大きい信号」を日常生活の言葉で表現したのが、「驚き」に他なりません。

以上、ややこしい話をしましたが、結論はシンプルです:

「周りに埋もれた言葉では判断を変えることはできない」

この点に関しては、更にEugene Schwartzの教えがあるのですが、それはまたの機会にしましょう。


P.S. 今回お話しした情報量の期待値は、実はエントロピーと呼ばれます。

この量は物理学(より詳細には熱力学)のエントロピーと定数倍になるという関係にあります(なので、ややこしいのですが)。

ご興味がありましたら、こういった物理の話もしようと思います。

P.P.S. 今までは

・2週間に1回のメインメール
・それ以外の週に数回の補足メール

を送ってきました。

ですが、次回からは

・月に1回のメインメール(基本的に月初)
・週に数本の補足メール

に変えようと思います。



最後までお読み頂き、どうもありがとうございました。

ご質問やご意見を歓迎します。

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